片桐 惟人(かたぎり これひと)会員プロフィール

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ご挨拶

拝啓

このたびA会に入会させていただきました片桐惟人と申します。私は現在、私立大学非常勤講師として教鞭を執りながら、探偵小説における死体描写の美学について研究を続けております。

幼少期より、人形の解剖に強い関心を持っていました。母の手作り人形を分解し、その構造を克明にスケッチする日々を過ごしました。そのような私の関心は、自然と江戸川乱歩作品における人体改造や人形愛好の主題へと結びついていきました。

大学では比較文学を専攻し、特にフランス耽美派の影響下にある日本の探偵小説における死体表象について研究を進めてまいりました。修士論文では「乱歩作品における死体の耽美化―『押絵と旅する男』『芋虫』を中心に―」というテーマで執筆し、人形と死体の境界的表象について考察いたしました。

現在の研究活動

主な研究テーマは「近代日本文学における死体の審美化」です。特に、1920年代から40年代にかけての探偵小説における死体描写の変遷と、その美的価値の転換過程に注目しております。

最近では、夜間の解剖室や病院の死体安置所にて、実地調査を行う機会を得ました。死後硬直や死斑の進行過程を、文学作品における表現と照らし合わせる作業は、私にとって得難い経験となりました。

また、個人的なコレクションとして、明治から昭和初期にかけての死体写真や解剖図譜の収集も行っております。特に戦前の新聞に掲載された猟奇事件の死体写真は、当時の死体表象を考える上で貴重な資料となっています。

教育活動について

担当している「比較文学特講」では、「死の表象」をテーマに、ボードレール『死体』から江戸川乱歩『芋虫』までを取り上げています。特に、腐乱死体の描写に見られる耽美性については、学生たちからも強い関心が寄せられています。

また、「近代文学演習」では、密室殺人における死体発見の場面を細かく分析する試みを続けています。防腐処理された人体標本の写真を教材として使用することで、より具体的な死体表象の分析が可能になりました。

A会での抱負

A会では、以下のような活動を通じて、会員の皆様との研究交流を深めていきたいと考えております:

  1. 耽美探偵小説研究会の立ち上げ
  2. 死体描写研究会での定期的な発表
  3. 解剖学的知見に基づく文学表現の分析会の開催

特に、医学部の解剖実習室をお借りしての現地研究会の実現に向けて、準備を進めているところです。

今後の研究計画

現在、以下のような研究プロジェクトを進行中です:

  1. 戦前の新聞記事における死体写真のデータベース化
  2. 解剖室を舞台とした小説における技術的・医学的正確性の検証
  3. 人体標本と人形の表象に関する比較研究

また、個人的な試みとして、実際の死体安置所での終夜観察をもとにした研究ノートの作成も行っています。死後変化の進行過程と文学表現の関係性について、新たな知見が得られることを期待しております。

収集活動

研究の一環として、以下のような資料の収集を続けています:

  • 明治・大正期の解剖図譜
  • 戦前の猟奇事件に関する新聞記事および写真
  • 蝋製人体模型
  • 昭和初期の死体写真帖
  • 密室殺人に関する警察写真

これらは全て、私の自宅地下室の特別な保管庫で適切な温度管理のもと保存されています。

おわりに

A会での活動を通じて、死体表象研究の新たな地平を切り開いていければと考えております。特に、実地調査に基づく具体的な知見を、会員の皆様と共有できることを楽しみにしております。

私の研究テーマは、一般的な文学研究の範疇を逸脱する部分があるかもしれません。しかし、死と美の境界的表現こそが、文学の本質的な価値の一つであると確信しております。

今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

令和六年春
片桐 惟人

略歴

  • 1982年 京都市左京区生まれ
  • 2001年 私立同志社高等学校 卒業
  • 2005年 京都大学文学部人文学科 卒業
  • 2007年 同大学院文学研究科修士課程 修了
  • 2010年 同博士後期課程 単位取得退学
  • 2010年~現在 複数の私立大学で非常勤講師

主な研究業績

  • 「解剖室のエロス―江戸川乱歩における死体愛好の系譜―」『比較文学研究』第42号
  • 「明治期新聞における死体写真の美学」『日本近代文学』第76号
  • 「密室殺人における死体位置の記号論」『探偵小説研究』第31号

所属学会

  • 日本比較文学会
  • 日本探偵小説学会
  • 耽美芸術研究会

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