ご挨拶
拝啓
このたびA会に入会させていただきました佐藤聖造と申します。現在、県立高校で教鞭を執りながら、戦前から戦後にかけての文学における東京表象の研究を続けております。
私が文学研究の道を志したきっかけは、高校時代に出会った横光利一の『上海』でした。近代都市とそこに生きる人間の群像を描き出した壮大な物語世界に衝撃を受け、モダニズム文学における都市表現の可能性について考えるようになりました。
大学では日本近現代文学を専攻し、特に1930年代から50年代にかけての都市文学に注目して研究を進めてまいりました。卒業論文では「横光利一作品における「都市の相貌」―モダニズムと戦後の連続性―」というテーマで執筆し、戦前戦後の東京を舞台とした作品群について考察しました。
研究活動について
現在の主な研究テーマは「昭和文学における「東京」の位相」です。特に、モダニズム全盛期から敗戦、そして戦後復興期にかけての東京が、どのように表現され、どのような意味を付与されているのかを分析しています。
最近では、横光利一の『旅愁』における欧州都市と東京の比較描写、また太宰治の『斜陽』における没落の舞台としての東京表象の分析を進めており、昨年の学会では「昭和文学における帝都と廃墟」というテーマで発表させていただきました。
また、高校での教育実践として、近現代文学作品を通じて生徒たちに日本の社会変容を考えさせる授業づくりに取り組んでいます。川端康成の『雪国』から安部公房の『砂の女』まで、都市と地方の相克を主題とした作品を教材として扱っています。
教育現場での取り組み
現在勤務している県立高校では、「現代文B」の授業を担当しており、特に昭和期の文学作品の読解に力を入れています。生徒たちには単なる文学史的知識の習得だけでなく、作品が書かれた時代背景や社会状況についても理解を深めてもらえるよう心がけています。
また、文芸部の顧問として、生徒たちの創作活動の支援も行っています。毎年発行している文芸誌では、生徒たちの作品に加えて、昭和文学についての研究ノートも掲載し、文学研究の面白さを伝える工夫をしています。
A会での抱負
A会では、以下のような活動を通じて、会員の皆様との研究交流を深めていきたいと考えております:
- 昭和文学研究会への参加と研究発表
- 機関誌への投稿による研究成果の発信
- 教育実践報告を通じた、文学教育の方法論の共有
特に、昭和期の都市文学についての研究会では、様々な視点からのご意見を賜りたいと考えております。また、教育実践についても、ベテランの先生方から貴重なアドバイスをいただければ幸いです。
研究計画
今後は以下のような研究を進めていきたいと考えています:
- 1930年代から60年代における東京表象の変遷についての包括的研究
- モダニズム文学と戦後文学の連続性に関する考察
- 現代文学教育における昭和期文学作品の活用方法の開発
特に力を入れたいのは、モダニズム期から高度経済成長期にかけての都市表象の変遷を跡付ける研究です。この研究を通じて、近代日本の社会変容と文学表現の関係性について、新たな視座を提示できればと考えております。
個人的な関心
研究以外では、古写真の収集と東京散策を趣味としています。特に明治・大正期の写真帖や絵葉書を収集しており、文学作品に描かれた街並みの歴史的変遷を視覚的に追う試みを続けています。
また、戦前の地図や案内書の収集も行っており、これらの資料を研究や授業に活用しています。文学作品と実際の都市空間との関係性を考える上で、同時代の視覚資料は重要な手がかりとなっています。
おわりに
A会での活動を通じて、私自身の研究をさらに深化させていきたいと考えております。また、教育実践面でも、会員の皆様との交流を通じて新たな知見を得られることを期待しています。
未熟な点も多々ございますが、昭和文学研究と教育実践の両面で、微力ながら会の発展に貢献できるよう努めてまいります。ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
令和六年春
佐藤 聖造
略歴
- 1977年 東京都文京区生まれ
- 1996年 東京都立上野高等学校 卒業
- 2000年 東京大学文学部国文学科 卒業
- 2002年 同大学院人文社会系研究科修士課程 修了
- 2005年 同博士後期課程 単位取得退学
- 2005年~現在 東京都立白鷺高等学校 教諭
主な研究業績
- 「横光利一『旅愁』における都市表象の重層性」『日本近代文学』第68号
- 「太宰治作品における「没落」の位相―戦後東京を中心に―」『比較文学研究』第35号
- 「高等学校における昭和文学教育の実践報告―都市と地方の相克を主題として―」『国語教育研究』第22号
所属学会
- 日本近代文学会
- 日本比較文学会
- 全国高等学校国語教育学会